不妊症の患者さまの笑顔

甲子園ららぽーと。

甲子園球場の向かいにあるショッピングモールです。

甲子園球場側から入ると、ショッピングモールはイトーヨーカドーへとつながっています。

そのイトーヨーカドーを歩いていると、前方から二人のお母さんがそれぞれベビーカーを押して楽しそうに談笑しながら歩いてきました。

ふと、お一人の顔を見ると、当院で不妊治療を受けていただいていた患者さまでした。

その患者さまは、西洋医学の不妊治療と共に、鍼灸の治療を受けていただいて、十数回の治療後、無事、妊娠したとの電話連絡をくださった方でした。

その電話連絡から約一年。

この目で、お母さんになられたその患者さまの幸せそうなお顔をお見かけできたことは、大変にうれしいことでした。

治療の仕事では、病に悩まされている患者さまの辛い顔ばかり見ることになります。

症状が取れれば、お帰りになる際、笑顔を見ることが出来ます。

しかし、当院には西洋医学では治らない病と闘っておられる患者さまも多く、その場合、治療後すぐに笑顔というわけにはいきません。

そして、不妊症もその一つです。

不妊症は、肩こりなどと違って、治療直後に結果がでるような症状ではありません。

1ヶ月の生理周期の中で、妊娠して、生理が来ないことを祈り続けるという大変辛い病です。

妊娠できず生理が来てしまったということを電話で告げる患者さまの声を聞くのは、本当に辛いことです。

また、不育症の患者さまは、妊娠後も出産まで赤ちゃんがおなかの中で無事に育つことを願い続けておられます。

そういった不妊症・不育症の患者さまも無事出産にまで至れば、なかなかお会いすることもありません。

お会いできたとしても、また、別の症状に悩まされて来院されることになります。

そんな中で、今回、不妊症だった患者さまの赤ちゃんと一緒にいる幸せそうな笑顔を見れたことは、思いがけずうれしいことでした。

あぁ、無事生まれたんだなぁ、と思い、それでも、こちらからお声を掛ける必要も無いので、そっとすれ違いました。

患者さまは私に気づかなかったようです。

普段の私の白衣姿しか知らない患者さまたちは、私が私服だと気づかないことが多いのです。

私は振り向かず歩きながら、この仕事を頑張っていこう、と心にただ思いました。